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親が元気なうちに、別荘の話をしておけませんか——80代の親と50代の子の、切り出せない距離
「そろそろ別荘どうするか、話したほうがいい気がしている」
50代後半から60代の方とお話していると、この一言から始まる相談が増えてきました。
親はバブル期に蓼科や原村、富士見高原に別荘を買った世代。今は70代後半から80代に入っている。年に一、二度、夏に行く程度で、冬はもう行かない。子である自分も、何年も足を運んでいない。管理費だけが毎年引き落とされている——。
頭の中では「いずれ売る話になる」と分かっている。でも、切り出せない。
今日は、その「切り出せない距離」について書きます。
なぜ親は自分から「売る」と言わないか
バブル期の別荘は、単なる不動産ではなく「人生の達成の象徴」として買われていました。「定年後はここで」「孫が来たら泊めてやる」「夫婦でゆっくり過ごす」——その絵が、当時はリアルに信じられていた。
私自身、蓼科湖の畔で育ちました。両親が別荘地の中でホテルを経営していて、80年代から90年代の別荘文化を真ん中から見てきました。当時40代50代だった世代が、いま親世代として残しているのが、八ヶ岳西麓のバブル期別荘です。彼らが何を考えてあれを買ったかは、わりと身体で分かるつもりでいます。
退職前後で体力が落ち、長距離運転が辛くなる。冬の凍結対策が億劫になる。配偶者が先に亡くなる、または介護に入る。孫は来ない。それでも別荘は残っています。「いつかまた行く」気持ちと、「もう行かない」現実の間で、宙に浮いたまま。
ここに、子世代が見落としがちな構造があります。
親世代は、自分から「もう売ろう」と言いにくいのです。別荘を買ったことが当時の「正しい判断」の象徴だったから、売却を口にすることはその判断を自分で否定することになる。「将来お前たちに残してやる」と言っていた手前、引っ込める時に何かを失敗したような気持ちになる。そして、別荘そのものが「会社人生で取り戻せなかった時間」を取り戻すための場所だったから、手放すことはその時間を認めることになる。
だから親は黙っています。固定資産税の通知が来ても、管理費の請求が来ても、「まあ来年考えるか」で済ませる。十年それを繰り返してきた家庭が、八ヶ岳西麓に何百件と存在します。
親が80代に入った時、何が変わるか
子世代も簡単には切り出せません。親の人生の象徴を否定するように見えるのが怖い。きょうだいがいればさらに複雑です。
しかし、親が80代に入ると、状況が一段階変わります。
判断力・体力・気力のすべてが、70代の頃とは違ってきます。複雑な書類を読むのが辛くなる。久しぶりの場所まで動くのが辛くなる。新しい人と話すのが疲れる。
この段階で売却の話を持ち出すと、親の処理能力が追いつかないことが出てきます。意思はあっても、手続きの中盤で消耗してしまう。境界確認の立会い、室内の片付け、管理組合との手続き、登記関係の書類整理——どれも、80代の親が一人でこなすには重い作業です。
売却を実行する体力は、子世代が想像するより早く失われていきます。
そしてもう一つ。判断能力が低下すると、不動産取引そのものが法的に難しくなります。後見人や家族信託の手間が増える。元気なうちに動けば数ヶ月で終わる話が、判断能力が落ちた後では一年以上かかる。
ここに「親が元気なうちに話をしておく」ことの実務的な意味があります。感情の問題に見えて、実は時間の問題なのです。
切り出し方の前に、自分が情報を持つ
では、どう切り出すか。
その前に、子世代がやれることが一つあります。自分が、その別荘の現在の状態と、市場の現在の状態を、ある程度知っておくことです。
親に「売ろうよ」だけだと、親は防御的になります。「いくらになるかも分からないのに」「面倒な話を持ち込まれた」と感じる。
そうではなく、「今の市場ってこういう感じらしいよ。この別荘地、今はこういう人が買っているんだって」と、情報のかたちで持ち込むと、入り口が変わります。親が自分で考える余地が残るからです。
八ヶ岳西麓の別荘市場は今、変化の途中にあります。ここ1〜2年、別荘地の中の物件より、集落寄りの中古住宅のほうに内見が早く入るようになりました。問合せで「畑を付けられますか」と聞かれる頻度も上がっています。買い手は二地域居住・定住転換・自給志向の30代から50代に変わってきていて、デザイン重視の別荘より、畑が付いていたり集落の中にあったりする物件のほうが動きやすい。冬期の凍結対策がきちんとしている建物の評価が上がっている——。
この変化を、親に「教える」のではなく「共有する」かたちで持ち込む。すると親自身が「自分の別荘はどっち側か」を考え始めます。考え始めれば、売却の話は親の側の判断として動き出します。
最後に
切り出すかどうかは、その家族の事情です。私たちはそこに踏み込みません。
ただ、もし「そろそろ話したほうがいい気がしている」という気持ちがあるなら、それは多くの場合、正しい感覚です。親世代が80代に入る前後の数年は、家族としてその別荘をどうするかを考えるのに、ちょうどよい時期だからです。
別荘は本来、人生の局面に応じて手放したり持ち替えたりできるはず。塩漬けの十年、二十年で失われていくのは、家族にとっての可逆性そのものです。
別荘の売却は、ふつうの中古住宅売却と少し違います。管理組合との調整、別荘地内の道路や水道の取り扱い、残置物、共有名義——他社さんが扱いにくい論点がよく出てきます。私たちは自社で買い取れる体制を持っていて、別荘地内の私道・管理組合協議・伐採届といった行政手続きも内製化しているので、そういう論点込みで引き受けられます。査定額を出すことだけが仕事ではなく、家族の中で話が進むための情報を整理してお渡しすることもしています。
親が元気なうちに、別荘の話をしておけませんか。 急ぐ必要はありません。けれど、先送りできる時間も、思っているほど長くはないのです。
